4 「真実」


地竜の月21日 晴れ

バルマムッサの大虐殺からすでに二週間以上が経っていた。
私は虐殺の首謀者、デニム・パウエルを探している。

そう、あれは三週間前…
虐殺の時、私は足の不自由な兄さんの世話をする為、バルマムッサにいた。
そこにデニム達『神竜騎士団』が現れて、私達に共に戦おうと決起を求めた。
しかしそこに居たのは戦争に疲れた老人達ばかり。戦う気になるはずが無い。
結局デニム達は諦めて引き下がった…が、その夜、街に火が放たれた…
私が兄さんを助けながら、混乱する人の中で見たもの、それは住民を殺すウォルスタ兵だった…
何故、ウォルスタ兵が同胞である私達を?分からない…
その時、戦場から飛んで来た流れ矢が兄さんの心臓を貫いた。
兄さんは一言の言葉を漏らさずその場に倒れこんだ。すでに息絶えていた。
何?何なの?何が起こったの?誰か、誰か助けて…


地竜の月22日 曇り

一人で町外れを彷徨っていると、レオナールが居た。私の恋人だ。
レオナールは兵に指示を出していて、私に気付いていない。
私が声をかけると、レオナールは一瞬ビクッとしたが、
声の主が私であると分かると、安心した表情で私を抱きしめた。
レオナールの話によると、虐殺はデニムの独断で行われたらしい。
デニムがガルガスタンと手を結び、裏切ったようだ。
英雄と呼ばれ、ウォルスタの中核になりつつあったデニムがそのような行動に出たかは分からない。
しかし奴が兄さんを、ウォルスタの同胞を皆殺しにしたと言うのなら、許せない。
私がみんなの仇を取ってやる!


地竜の月23日 曇り

デニムが虐殺の首謀者であることは一般には知らされていない。
公爵はバルマムッサの虐殺を、ガルガスタン軍の一方的なものとして島中に流した。
その結果、ガルガスタンは二つに分裂し、バルバトス枢機卿は窮地に追い込まれた。
反面、ウォルスタ解放軍は志願者が増加、現在では約3倍の規模にふくれあがっている。
その一方で公爵はデニムに賞金を懸け、賞金稼ぎやヴァイスにデニム討伐を命じた。
しかしもう三週間は経とうと言うのにデニムはまだ見つからない。
これだけ探しても見つからないと言うのはおかしい。
もっと人の出入りが激しい所…、…船…港…港町?


地竜の月24日 曇り

私は今、港町アシュトンの近くにいる。
町にデニムがいないか密偵を出して探している所だ。
ここにいなければ何処を探せばいいのか…
そんな私の耳に飛び込んできたのは、デニム発見の報告だった。
やっと見つけたぞ!デニム。
兄の、そしてウォルスタの敵、必ず仕留めてみせる。


地竜の月25日 晴れ

すでに兵の配置は終わっている。
奴が満足の行く答えを出さなければ、すぐにでも殺してやる。
デニムが姿を現した。私はデニムに怒りをぶつけた。。

「兄さんは足を怪我して、歩くことすらできなかったのに・・・。」
「待ってくれ。バルマムッサの住民を殺害したのは僕らじゃない!
 その場にいたのは事実だ。しかし、僕らは止めようとしたんだ。あの虐殺をッ!」
「そんな言葉、信じるとでも思うかッ!なぜ、ウォルスタを裏切ったッ!」
「あれは公爵の仕業だ。ガルガスタンがやったわけじゃないんだッ!」
「言うに事欠いてそのような虚言をッ!この恥知らずめッ!」

やはり話し合いでどうこうなる訳は無い。デニム、あの世で後悔するがいい。


水竜の月1日 晴れ

私はデニムに敗れた。流石はゴリアテの英雄と言ったところか…
私は死をも覚悟したが、デニムは私を殺さなかった。
何故だ?あれだけの大量虐殺をした男が、何故、私を生かしておく?
デニムは、私自身の目で真実を見極めて欲しいと言っている。
真実?デニムがバルマムッサで虐殺をした事は、恋人のレオナールから聞いた話。
それが嘘?まさか…レオナールが…?そんなバカな!
一体何が正しいの?誰が正しいの?分からない…


水竜の月2日 雨

デニム達はタインマウスに来ている聖騎士ランスロット達と合流する予定のようだ。
私は自分が何をすべきか、何が正しいのかも分からず、ただデニム達に付いて行っている。
レオナール、あなたが嘘をついたの?それともデニムが嘘を?
誰か私に真実を教えて…


水竜の月3日 晴れ

賞金稼ぎやガルガスタンの残党を蹴散らしながら、デニム達はタインマウスの丘に到着した。
私はまだ、自分の取るべき道を見つけていない。
ここに来ているという聖騎士達は、バルマムッサの真相を知っているのだろうか?
私に道を示してくれるのだろうか?
しかしタインマウスには聖騎士達はいなく、そこにいたのはヴァイスだった。
そしてヴァイスが私に真実と進むべき道を示してくれた。
それは私にとって知りたくも無い真実であったが…


水竜の月4日 晴れ

ヴァイスとデニムの会話

「逃がしはしないぜ。おまえたち姉弟にはここで死んでもらおう。
 生きていられると邪魔なんだよ。バルマムッサの生き証人は残らず殺せという公爵様の命令でなぁ。」
「ヴァイスッ、兵を引けッ!どうして僕らが戦わなきゃいけないんだッ!」
「おまえは命令に逆らった裏切り者だ。ガルガスタンの犬めッ!」
「ばかな・・・。あんな酷い仕打ちを誰が許すというんだッ!」
「俺が許すッ。歴史が許してくれるッ。わずかな犠牲が同胞の未来を築くんだ。」
「ヴァイス・・・、おまえ・・・。」

すべてはデニムの言った通りだった。
あの虐殺は公爵の計略だった。もちろんレオナールも知っていた。
私は兄の仇を討つッ。たとえそれがレオナール、あなたでもッ。
そしてヴァイス!地の果てまで追いつめて、バルマムッサの償いをさせてやるッ!

私の進むべき道、それはあのような悲劇を二度と起こさせない事。
その為に公爵やそれに従う犬を倒す事。
ヴァイス、レオナール。私は必ず兄さんの仇を討つ。首を洗って待ってなさい!

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