5話 「現実」


水竜の月5日 雨

不覚だったわ、海賊に捕まるなんて…
ヴァレリア解放戦線のメンバーだった以上
誰かが私に賞金を懸けていた可能性もあるわね。
いずれにせよ、無事にはすまない。
ここで死ぬ…、私の人生は何だったのかしら…

権力闘争に破れ、腑抜けになった父の下を出て、姉さんと供にヴァレリア解放戦線を率いて、
そして姉さんのやり方に付いて行けず、姉さんの下からも去った…
私がやりたかった事は…


水竜の月6日 晴れ

自分の行動で、この国がより良い方向に向かうと信じていた。
しかし実際は普通の生活を営む人々を戦争に巻き込み、
罪も無い多くの人々が死んでしまった。
私のやってきた事、私の信じていた事、それらは間違いだったの?
それとも私は姉さんの言うように、
現実を見ることが出来ない、自らの手を汚すことが出来ないただの子供なの?
分からない…、でも姉さんのやり方は間違っている筈。
今となっては、どうしようもないけれど…


水竜の月7日 晴れ

私は助かった。
海賊に襲われた時に、逃げ延びたフォルカス達が助けに来てくれた。
そしてその手助けをしてくれた青年こそがデニム・パウエル。
あの時、ライムで私を助けてくれた青年だった。


水竜の月8日 晴れ

フォルカスが私を助けるのにデニム達の協力を得られたのは
船で彼らをライムまで運ぶ、と言う条件があったからだそうだ。
船旅の間、私はデニムの現状を聞いた。
現在デニムには3万ゴートもの賞金が懸けられている。
これはバルマムッサの大虐殺の首謀者としての物だが、真相は違った。
バルマムッサの大虐殺に納得できなかったデニムは公爵の下を離反。
真相が公けになるのを恐れた公爵がデニムに賞金を懸けた、と言うことらしい。
その結果デニムは賞金稼ぎから、ウォルスタ軍から、
ガルガスタン軍からも追われる様になってしまった。
上の決定に納得できず組織を離れた。デニムと私は似てるかもしれない。
彼ならリーダーを、いえ姉さんを説得できるかもしれない……


水竜の月9日 曇り

船でライムへと向かう私達は物資調達の為、ゴリアテに船を着けた。
ゴリアテと言えば、デニムやカチュアの生まれ故郷。
何処か寄っておきたい場所もあるかもしれない。
とは言え私達は追われる立場の人間。長居は出来ない。
必要最低限の補給だけ済まして、直ぐに船を出すつもりだった。
しかしやはりここにも居た、賞金稼ぎが。
災いのダゴンと呼ばれるウィザードの賞金稼ぎだ。
敵はそれなりの戦力だったが、私もフォルカス、バイアンと共に戦闘に参加。
何とか敵を倒す事に成功した。
しかしダゴンの最後のセリフが耳から離れない……
「3万ゴートの金があれば・・・、娘の命を助けることができるのに・・・、くそッ。」


水竜の月10日 晴れ

真の平和を得る為にはどうしたら良いのだろう?
いや、そんな方法など無いのかもしれない。
それでもその方法を求める私は甘いのだろうか?
しかし姉さんのやり方「屍の上に築いた理想郷」は私には納得できない。
勿論、戦争をしたら人は死ぬ。
でも最初から犠牲を前提としたやり方、関係ない人を巻き込むやり方、やはりそれには納得できない。
デニムなら私の求める答えを出してくれるのかも知れない。
そうだ、デニムを姉さんと会わせてみよう。
何か、答えが出るかもしれない…


水竜の月11日 晴れ

ボード砦、ここがヴァレリア解放戦線のアジト。
ここには解放戦線の指導者セリエ・フォリナー、私の姉さんが居る。
組織の出した無謀な計画を止める為に、再びここに足を踏み入れた。
その計画とはロンウェー公爵を暗殺する事。
組織の、いえ姉さんの計画はこうだ。

 ・・・枢機卿が率いるガルガスタンはもう時間の問題だ。
 ガルガスタンを撃ち破った解放軍はヴァレリアの半分を制する強大な勢力となることだろう。
 そうなると、バクラムとウォルスタの軍事力は五分と五分。戦えば共倒れになるに違いない。
 狡猾な司祭と公爵はその事態を避けるために手を結ぼうとするだろう。
 それでは何も変わらぬ。
 だが、公爵を暗殺すれば、ここぞとばかりにバクラム軍は侵攻を始めるだろう。
 そして司祭がこの島の覇権を握ったその時、今度は司祭を暗殺するのだ。


私はその成否では無く、やりかたに納得できなかった。
私は勿論反対したが、姉さんは私の意見を聞かなかった。
その結果、計画に賛成出来なかったフォルカスやバイアンと共に組織を出たのだ。
そして今また、姉さんを止める為にここに戻ってきた。
でももう遅かった。
ウォルスタ軍はガルガスタンを破り、バルバトス枢機卿も処刑された。
姉さんの予想通りに事は進んでいる。姉さんは計画を実行に移すだろう。
私はまた何も出来なかった。

進むべき道を無くした私にデニムは言ってくれた。
「一緒行こう、システィーナ。僕らは似ている、そうは思わないか?」
私は姉さんと違う方法でこの国を平和にする方法を見つけてみせる。
たとえ、そのために姉さんと戦うことになったとしても・・・。

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