第2話 「姉弟」
カチュアの日記
神竜の月10日 晴れ
デニムは今、トレーニングをしている。
私は「疲れている」と言って、参加しなかった。
とは言っても、本当に疲れてるわけではない。
この間は公爵の手前「父の敵を」とか言ったが、あんな人の事もどうでもいい。
革命やウォルスタの未来にも興味は無い。
ただデニムが居てくれればそれでいい。
お願い、デニム。私から離れないで。
それだけが私の望み…
神竜の月11日 晴れ
今日もデニムはトレーニングをしている。
ヴァイスも私と同じように、トレーニングには参加してないようだ。
もっともヴァイスはデニムの下に付くのが嫌なだけでしょうけど。
ヴァイスは子供のころからデニムと比較されていた。
そして、いつもデニムのほうが優秀だった。
幼馴染とは言え、デニムのことを面白く思ってないでしょうね。
今日はトレーニングを早めに切り上げ、明日に備えるらしい。
明日はいよいよ、クリザローに向けて出発するみたい。
クリザローまで無事にたどり着けるのかしら?
神竜の月12日 晴れ
タインマウスの丘でガルガスタン軍と鉢合わせになった。
初めての本格的な戦闘。しかも私達だけで。
私は逃げ出したかった。
でもデニムを置いて逃げるわけにはいかない。
その時、後方から何かが飛んで来た。…鳥?いや、あれは…
カノープスだった。
「お前達だけじゃ心配だからな」なんて言っていたのでちょっとカチンときたが、
これでデニムが危険にさらされる事が減ったかしら?
そのおかげで私達は一人の犠牲者も出さずに戦闘を終えた。
よかった、デニムも無事なようね。
神竜の月13日 曇り
クリザローの町に近づくにつれ、私は気分が悪くなり始めていた。
今思うと、私はプリーストだからそれを敏感に感じていたのかもしれない。
あの人に手ほどきを受けたプリーストとしての力。
それがあるから私はデニムの傍にいられる。
そういう意味ではあの人、父親のプランシー神父に感謝するべきかしら?
でも私の力が必要無くなれば、デニムは私をどうするのかしら…
神竜の月14日 雨
クリザローの町に着いたらそれらは姿を現した。
ゴーストにスケルトン…アンデッドである。
これだけの数のアンデッドが自然発生するとは思えない。
死者を冒涜する術、ネクロマンシー…
私の中にもそれを許せないと思う心がまだ残っているのかしら?
クリザローでは一人の神父がアンデッドに囲まれていた。
プレザンスと名乗るその神父もレオナール救出に来ていたみたい。
デニムはもちろんその神父を助けながら、敵を撃破する。
しかし敵の中に屍術士はいなかった…
ともかく私達は捕らわれていたレオナール達を救い出す事に成功した。
神竜の月15日 雨
どうやら兵士達をアンデッド化していたのは二バスと言う男らしい。
レオナールとプレザンスは奴を追うかどうかをデニムに託すとか言い始めた。
そんな事を言われたらデニムの答えは決まっている…
やはり追いかけるみたいだ。
自ら危険に突っ込むような事はして欲しくないのに…
そう言えばプレザンスはヒーリングは勿論、アンデッドを除霊出来るイクソシズムまで使えるみたい。
戦力にはなるけどデニムはまだ私を必要としているのかしら…
デニム、どうなの…?
神竜の月16日 晴れ
私達は屍術士ニバスを追ってクァドリガ砦まで来ていた。
ますます感じる黒い波動。確実に近くにニバスが居る。
私はますます気分が悪くなり始めていた。
ニバスは会った早々「見逃してくれませんか?」「争うつもりは無い」と言って戦う姿勢を見せない。
私としてはこんなやばそうな相手と戦いたくは無いのだけど…
デニムは「投降するなら命までは取らない」とかまた甘い事を言っている。
そんな言葉が通用する相手でもないでしょうに…
案の定戦いになったが、こちらにはプレザンスやレオナールがいる。
しかしニバスを追い詰める事は出来たが、形勢不利と見るやニバスはあっさり逃げ出した。
こうなる事を考えていなかったのかしら?レオナールも間抜けね。
結局デニムがニバスに目を付けられただけ。
だから関わらなければよかったのに。
もっともあんなジジイにデニムは渡さないわ。
デニムは私だけのものよ。デニムは私のただ一人の家族なのだから…