1話 「発端」

   



神竜の月1日 晴れ

今日ヴァイスがある情報を仕入れてきた。
暗黒騎士団団長、ランスロット・タルタロスが三日後にこの町に来るそうだ。
暗黒騎士団…そうか、奴らが来るのか…
もっとも、ヴァイスの情報だからどこまで当てになるか分からないが…
本当ならこのチャンスは逃すわけにはいかない…


神竜の月2日 曇り

僕とヴァイスはランスロットを襲撃する計画を進めた。
こんな時じゃないと一介のゲリラ兵が、騎士団団長を暗殺するなんて不可能だからな。
カチュア姉さんは、「やめたほうがいい」と反対している。
しかし、こんなチャンスは二度と来ないだろう。
僕はランスロットを…殺す。


神竜の月3日 曇り

明日はいよいよランスロットがここ港町ゴリアテに来る日だ。
流石に心臓がドキドキしている。今日は寝れそうも無い。
ヴァイスは今日も剣の稽古をしている、やる気満々だ。
だが姉さんは、まだ反対している。奴らが何をしたか忘れたのか?
老人や子供を殺し、女を犯し、そして…父さんを連れ去った。
姉さんにとっては、もうどうでもいいことなのか?僕は奴らを許さない。


神竜の月4日 晴れ

結論から言うと、ランスロットは来なかった。
いや、来るには来たがそれは同じ名前の別人だった。
ランスロット・ハミルトン。元ゼノビアの騎士らしい。
しかし本当だろうか?もっとも僕達を騙してもしょうがないが…

彼らランスロット一行は、国を追われ、職を失い、この島ヴァレリアに流れ着いたらしい。
彼らの言う事を丸々信じる訳ではないが、もし彼らの協力を得られたら例の計画が成功するかもしれない。
敵に捕らわれた僕たちウォルスタ人の指導者、ロンウェー公爵を助ける計画が…。


神竜の月5日 晴れ

彼らに助力を求めると、あっさり良い返事がもらえた。
彼らも新しい勤め先が欲しかったみたいだ。
早速僕たちはアルモリカ城に向かう事にした。
しかしここでも、姉さんは反対していた。
姉さんにとっては、敵討ちも革命も、どうでもいい事なのだろうか?


神竜の月6日 晴れ

アルモリカ城でのランスロットさん達の活躍は凄かった。
城内から城外へと一気になだれ込み、あっさりガルガスタンの駐留部隊を蹴散らした。
明らかに僕やヴァイスとはレベルが違った。
華麗な剣技のミルディンさん。
それとは対照的に、豪快な剣を振るい敵をなぎ倒すギルダスさん。
有翼人で圧倒的なスピードを誇るカノープスさん。
老齢ながらも数多の魔法で敵を翻弄するウォーレンさん。
そして、心技体を兼ね備えた剣も魔法も使える聖騎士ランスロットさん。
まさに彼らは一騎当千と言うに相応しい戦士達だった。
これだけの腕を持ちながら、本当に国外追放なんてされたのだろうか?
とは言え目的のロンウェー公爵を助けると言う事は達成出来たんだ、今は良しとして置こう。


神竜の月7日 曇り

ロンウェー公爵に呼ばれ話をした。
結局ランスロットさんは城の警護及び兵の訓練を任せられた。
あれだけの腕を持つ人がそんな仕事で納得するのかと思ったが、ランスロットさんはあっさり承諾した。
そして僕らは…、なんと騎士団員に任命された。
ヴァイスは一人張り切っているが、僕はどうにも腑に落ちない。
普通、ランスロットさんを任命すると思うが…
多分公爵は、まだ彼らを信用していないんだろう。
まあ僕も彼等の事を全面的に信用してる訳じゃないが、彼等が敵に回るような事は避けたいものだ。


神竜の月8日 雨

早速、公爵から任務を言い渡された。
クリザローの町で、騎士団長のレオナールさんが苦戦を強いられてるらしい。
僕達に援護に向かって欲しいとの事だ。
僕達は城下町で、公爵から受け取った軍資金で装備を整え、出発の準備をすませた。
これからはランスロットさん達はいない。自分たちだけで行動しなければいけない。
素人同然の僕達だけで大丈夫だろうか…


神竜の月9日 曇り

準備も整い出発しようかと思ったが、ランスロットさんに言われたセリフを思い出した。
「トレーニングを忘れないように」
そうだ、公爵から預かった兵はすべて新兵だし、僕達とて戦闘経験は殆ど無い。
もうすでに、父さんの敵討ちだけじゃなくなっていた。
流されてる感はあるがウォルスタの未来、更には真の平和の為こんな所で死ぬわけには行かないのだから…

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